Tim Heckerの「Ravedeath, 1972」についてはもはや言葉を挟む余地のない傑作でなので未聴の方はぜひ聴いていただきたい。
さて先日の渋谷WWWでの来日公演である。
照明が落とされた空間で、視覚を奪われた観客は残された感覚に神経を集中するしかない。執拗なまでのノイズが皮膚、内蔵までも揺らし、音が空気の振動であることを再認識させられる。凶暴だが美しい音とも振動とも言える何かが飽和した空間に身を委ねていると、次第に周囲と自分の境界が曖昧になってゆくようだった。最後まで照明が灯ることはなく、Tim Heckerらしき人影も一言も発さずステージを去ってしまった。
「Ravedeath, 1972」からの音源も流れていたが、アルバムにおいても聴覚だけでなく触覚という情報も意図されていたのだろうか。あの空間で経験した感覚は言葉では形容しがたい。秋には新作も予定されているということなので近いうちに再来日が実現することを期待したい。次は椅子もあると嬉しい。