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令和元年の30枚

on 2019年12月31日


改元とアンモナイトの遠いため息。2019年の音楽。

Viitasen Piia – Meidän Jälkeemme Hiljaisuus (Texicalli Records) ★
これだけ聴いてもらえれば残りの29枚は流してもらって構わない。愛して止まないフィンランドのSSW。言葉はわからなくても音楽にとても真摯に向き合っているのがわかる。真っ直ぐな歌声は人を惹きつける。
#ssw, Finland | Apple / Spotify

65daysofstatic – replicr, 2019 (Superball) ★
奇しくもシド・ミードの訃報が届いてしまったが、ブレードランナーをモチーフにしたような骨太のアナログシンセサウンド。初期のアルバムからは随分傾向が変わったように感じるかもしれないが、実際は上物のギターやドラムを取っ払えば一貫してこの音が鳴っている。
#electronic, IDM | Apple / Spotify

Hania Rani – Esja (Gondwana Records) ★
ポーランドの女性ピアニスト。こういうアルバムと出会うために音楽を聴いているのだ。12月に演奏を聴く機会に恵まれたのもよかった。楽譜にサインも貰えて嬉しい。
#piano | Apple / Spotify / bandcamp / YouTube

Holly Herndon – PROTO (4AD) ★
稀代のマッドサイエンティストHolly HerndonがAIの赤ちゃんとのコラボで生み出したという作品。アルバムの完成度という点においては前作「Platform」に一歩譲るかもしれないが、その不完全さも狙いであるように感じる。とはいえ「Frontier」が今年のベストトラックの一つであるのは間違いない。
#electronic | Apple / Spotify

IVVVO – doG (Halcyon Veil)
他にない音楽をご所望ならこちらを推したい。リリース時期が少し早すぎた。夏くらいまでは間違いなくベストだった。
#rave, avant-garde | Apple / Spotify / bandcamp

FKA Twigs – MAGDALENE (Young Turks)
instagramに楽器を持ってる写真が全然無いのがどうしても気になってしまう。サウンドデザインはNicolas Jaarのプログラミングに寄与するところが多いのでは。いや四の五の言わずに聴け。
#electronic | Apple / Spotify

Andy Stott – It Should Be Us (Modern Love)
どうしても期待値が高くなるので1周目は肩透かしを食らうかもしれないが聴き込むとどんどん良くなる。
#Experimental, Dub | Apple / Spotify

Triad God – Triad (Presto!? Records) ★
YOYOYOチャイニーズラップ。Triadは香港マフィアの総称。アルバム全体に漂うこの気だるさは怒りなのか諦観なのか。
#rap, spoken words | Apple / Spotify / bandcamp

Petrels – The Dusk Loom (Denovali)
デヴォーショナルな一人多重録音。
#post rock, experimental | Apple / Spotify

Helm – Chemical Flowers (PAN)
本年度音響大賞。
#ambient, Experimental | Apple / Spotify

The Caretaker – Everywhere, an empty bliss ★
今際に見た走馬灯か。The CaretakerことJames Leyland Kirbyによる6ステージにわたる認知症患者の症状の進行を描いた「Everywhere at the end of time」が壮絶な完結を迎えた後に発表されたアルバム。気分が優れないときに聴くのはやめよう。期間限定配信とのことだが現在もbandcampからname your priceで入手可能。
#ambient, experimental | bandcamp

Iamthemorning – The Bell (Kscope)
昨年のGleb Kolyadinのピアノソロもいいが、やはりMarjanaの声が加わると一層いい。
#chamber rock | Apple / Spotify

Blanck Mass – Animated Violence Mild (Sacred Bones)
アルバムアートの血が滴るリンゴやタイトルから若干シニカルな意図が見て取れるがいい音楽を届けてくれるならまあ。
#IDM | Apple / Spotify

Aïsha Devi – S.L.F. – EP (Houndstooth)
#electronic, footwork | Apple / Spotify

Rian Treanor – ATAXIA (Planet Mu)
#electronic, IDM | Apple / Spotify

Rainer Veil – Vanity (Modern Love)
#Dub, IDM | Apple / Spotify

madteo – Dropped Out Sunshine (DDS)
#avant-garde, electronic, IDM | Apple / Spotify

Antwood – Delphi (Planet Mu)
本作の他にEPも一枚。
#electronic, IDM | Apple / Spotify

Kali Malone – The Sacrificial Code (Ideal Recordings)
#classical | Apple / Spotify

無印良品 – BGM 24 Finland
無印の店頭でカルデミンミットみたいなのが流れてるなと思ったらカルデミンミットだった。
#traditional, folk | muji.net

36 – The Lower Lights (Past Inside The Present)
36にリズムトラックがついたらいいに決まってる。
#ambient, IDM | Apple / Spotify

Rachel Grimes – The Way Forth (Temporary Residence Ltd.)
アメリカ独立から現在に至るまでの、数世代にわたる個人の古い手紙や手記から想起されたアルバム。prime video等でHBO Filmsのアメリカ第二代大統領ジョン・アダムズのドラマを先に見ておくと時代背景がより分かりやすい。
#classical, spoken words | Apple / Spotify

Keaton Henson – Six Lethargies (Mercury Classics)
#classical | Apple / Spotify

Glåsbird – Svalbarð (Whitelabrecs)
#ambient, classical | Apple / Spotify

Jan Garbarek & The Hilliard Ensemble – Remember Me, My Dear (Live in Bellinzona / 2014) (ECM)
#classical | Apple / Spotify

Hildur Guðnadóttir – Joker (Original Motion Picture Soundtrack)
重苦しいチェロは唯一無二。ポストクラシカル愛好家なら10年前から御馴染みだと思う。同郷で師の故Jóhann Jóhannssonが存命だった世界線の事を考えるのは野暮だからよそう。
#score | Apple / Spotify

Saba Alizâdeh – Scattered Memories (Karlrecords)
イラン出身Saba Alizâdehによる民族楽器とテヘランのフィールドレコーディングを融合した作品。映画サントラ等でありがちな中東風音楽とは説得力が違う。
#Experimental | Apple / Spotify

Shards – Find Sound (Erased Tapes)
#classical | Apple / Spotify

Cornelius – THE FIRST QUESTION AWARD (Remaster 2019)
改めて聴くと恐ろしく金掛けてるなという印象。下手するとPointやFantasmaより録音がいい。
Apple / Spotify

佐野元春 – 或る秋の日 (DaisyMusic)
ソロ名義で発表されたミニアルバム。配信オンリーだった「君がいなくちゃ」「みんなの願いかなう日まで」等がCD音質で聴けるのは喜ばしい。バンドには演奏に徹してもらった(出典: 幻冬社 STEPPIN’ OUT! vol.10)ということで全体的にあっさりした印象だが、逆にバンド名義のアルバムの方でいかにコヨーテバンドがプラスに働いているのかがよく分かる。「最後の手紙」でも顕著だが2000年前後より明らかに声が復調してきているのも素晴らしい。2020年は40周年だ。
Apple / Spotify

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いつもそこにGoldmundがいた

on 2019年12月2日


2019年12月、めぐろパーシモンホール。4度目の開催となるTHE PIANO ERA 2019。国籍や文化の違いで同じピアノでも全く違う音を奏で出すというのを目の当たりにできるのが醍醐味。今見たいピアニストが世界中から集うこのイベント、今回の急先鋒であろうポーランドのHania Raniについては後日年末のリストかどこかで触れたい。

Goldmundこと、Keith Kenniffである。手元のiTunesによると「The Malady Of Elegance」の追加日が2008年10月。音源では十年来の付き合いでありながら前回十年前の来日公演には行けなかったので本人の演奏を見るというのは実は初めてだ。新宿タワーレコードの最上階の一番奥、エレベーター横の窓際、イージーリスニングとかアヴァンギャルドとかが並んでいたあの一角で見かけたのが出会いだったように思う。当時はポストクラシカルという言葉が出始めた頃だろうか。ピアノ経験者であれば数回聴けば再現できてしまうようなシンプルな旋律。アップライトピアノの機械音、ダンパーペダルの軋み。引き算の美学。

それから十年余、この界隈には数々の才能あるアーティストが現れ、今では大作映画のスクリーンで名前を見かける機会も増えた。あるいは体裁だけをなぞった作品に辟易することもあった。一時の静かなブームは過ぎて、緩やかに衰退しつつあるジャンルであることは否定できない。だが憂うことは全くない。乱造されたポストクラシカルが聴きたいのではなく、Goldmundの作る音楽が聴きたいのだ。Nils Frahmの作る音楽が。Dustin O’Halloranの作る音楽が。

そして今回の公演。「The Malady Of Elegance」を含め過去のアルバムからも満遍なく演奏された。懐かしい曲に耳を傾けながらこの十年に思いを馳せた。結局ピアノを買うことになったし、彼らの音楽が全く聴けなくなったこともあった。一切から距離を置きたい時もあった。それらを全て赦すかのようにKeithのピアノが会場に満ちた。

公演後、間近で見た顔はよく見た写真よりしかし深みを増しているようだった。彼に伝えたいことは山程あったが碌に言葉にできなかった。それで構わない。いつもそこにGoldmundがいた。一緒に写真を撮ってもらって会場を後にした。